要約 「ボランティアとはなにか」中井久夫

 ボランティアの倫理的根拠を辿ってみると、孟子の「惻隠の情」に行き着いた。だれもがはっとして助けようとする、この反省意識や理性的判断以前の心の動きー「座視するのに忍びない心」ーはたしかに誰にでもあるが、それが発動するまでには葛藤がともなう。

 大震災の中では一種の連帯感、共同体感情が存在した。このようなボランティアが動きやすい世界を「熱い」(ホットな)世界と呼ぶなら、ボランティアを組織化し効率化する行政の発想は場違いである。行政には常に公平性が要求されるため、誰かをとっさに助ける行為は馴染まないからだ。

 しかし、ボランティアにも「クール」な(冷めた)世界がある。ここで、ボランティアセンターのように、完全に組織化され、行政の手足となったボランティアは精神が形骸化する。災害の場において、行政からうまくいったとみえる場合、現場では様々な諍いが起こっていることがある。システムが模範的な円滑さで動くのは、しばしば末端の苦悩を押しつぶしているからである。つまり、ボランティアの現場と行政双方に同じ程度の不満が残る場合が、実はいちばんうまく行っているのである。

 

『高校生のための現代思想ベーシック ちくま評論入門 改訂版』2015年初版 筑摩書房より